親知らずの抜歯、お疲れ様でした。これで厄介な親知らずともおさらば！…と思いきや、抜歯後の痛みがなかなか引かない、むしろ増してきた気がする…そんな経験はありませんか？

もしかしたら、それは抜歯後の代表的なトラブルの一つである「ドライソケット」かもしれません。

この記事では、親知らず抜歯後に起こりうる主なトラブル事例と、特に注意したい「ドライソケット」について詳しく解説します。

症状、原因、対処法を知っておくことで、もしもの時にも落ち着いて対応できるよう、ぜひ最後までお読みください。

親知らず抜歯後に起こりうる主なトラブル

親知らずの抜歯は、歯科医院で行われる一般的な処置ですが、残念ながら稀にいくつかのトラブルが発生することがあります。多くは一時的なもので適切な処置で回復しますが、症状を見逃さないことが大切です。

術後の痛みと腫れが長引く

抜歯後の痛みや腫れは、通常2～3日、長くても1週間程度で治まるのが一般的です。しかし、それ以上長引く場合や、痛みが悪化する、腫れが広がるなどの場合は、何らかの異常が起きている可能性があります。

考えられる原因としては、以下のようなものが挙げられます。

感染（化膿）: 抜歯窩（抜歯した後の穴）に細菌が侵入し、感染を起こすことがあります。

強い痛み、発熱、膿の排出などの症状が見られます。

炎症の遷延: 通常の治癒過程よりも炎症が長引いている状態です。

ドライソケット: 後述しますが、最も注意が必要な合併症の一つです。

出血が止まらない

抜歯後はガーゼを噛むことで止血しますが、稀に出血が止まらない、あるいは再出血することがあります。少量のにじみであれば問題ありませんが、口の中に血が溜まるほど大量の出血が続く場合は注意が必要です。

対処法としては、清潔なガーゼを重ねてしっかりと噛み込み、安静にすることが基本です。

それでも止まらない場合は、すぐに歯科医院に連絡しましょう。稀に、血圧が高い方や血液をサラサラにする薬を服用している方は出血が止まりにくいことがあります。

唇や舌、頬のしびれ（神経麻痺）

下あごの親知らずの近くには、舌や唇、頬の感覚をつかさどる神経が通っています。抜歯の際にこれらの神経が一時的に圧迫されたり、損傷を受けたりすることで、しびれや麻痺が生じることがあります。

多くの場合、数週間から数ヶ月で回復しますが、稀に長期間にわたって症状が残ることもあります。

もし抜歯後数日経っても麻酔が切れたような感覚が残る場合は、速やかに歯科医師に相談してください。

ドライソケットとは？その症状と原因

数ある抜歯後トラブルの中でも、特に患者さんを悩ませるのが「ドライソケット」です。

正式には「抜歯窩性骨炎（ばっしかせいこつえん）」と呼ばれます。

ドライソケットの症状

通常の抜歯後の痛みは、時間の経過とともに和らいでいくものですが、ドライソケットの場合は以下のような特徴的な症状が現れます。

抜歯後3～4日以降に痛みが悪化する: 抜歯直後の痛みは治まりかけたのに、数日経ってから再びズキズキとした強い痛みが現れ、徐々に増していきます。

耐え難いほどの激痛: 市販の鎮痛剤が効かないほどの強い痛みが特徴です。

鈍い痛みが耳やこめかみ、首の方まで広がる: 抜歯部位だけでなく、関連する神経の走行に沿って広範囲に痛みが放散することがあります。

抜歯窩に血餅がない: 正常に治癒している抜歯窩には、かさぶたのような役割を果たす「血餅（けっぺい）」が形成されますが、ドライソケットの場合、この血餅が失われてしまい、骨が露出した状態になります。

口臭: 抜歯窩に食べ物のカスがたまったり、細菌感染が起きたりすることで、特有の嫌な臭いが発生することがあります。

発熱: 感染が併発している場合、発熱を伴うことがあります。

ドライソケットの原因

ドライソケットは、抜歯後に抜歯窩に形成されるはずの「血餅（けっぺい）」が、何らかの原因で脱落したり、十分に形成されなかったりすることによって起こります。

血餅は、傷口を保護し、骨や歯肉が再生するための足場となる重要な役割を担っています。

この血餅が失われると、抜歯窩の骨が口腔内に露出した状態となり、細菌感染しやすくなったり、外からの刺激が直接神経に伝わって激しい痛みが生じたりします。

具体的な原因としては、以下の点が挙げられます。

過度なうがい: 抜歯後、頻繁に強くうがいをすることで、せっかくできた血餅が洗い流されてしまうことがあります。

強いうがいや吸引: ストローで飲み物を吸ったり、タバコを吸ったりする際の口腔内の陰圧変化が、血餅の脱落を招くことがあります。

喫煙: タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させ、血流を悪くする作用があります。これにより、血餅の形成が阻害されたり、治癒が遅れたりします。また、吸引行為そのものもリスクを高めます。

抜歯窩への食べかすの侵入: 抜歯窩に食べかすが詰まり、それが原因で細菌が繁殖し、血餅が溶かされてしまうことがあります。

免疫力の低下: 体調が優れない時や、ストレスが多い時などは、体の免疫力が低下し、治癒が遅れたり感染しやすくなったりすることがあります。

抜歯の難易度: 難易度の高い抜歯（親知らずが深く埋まっている、骨を削る必要があったなど）の場合、抜歯窩へのダメージが大きく、ドライソケットのリスクが高まると言われています。

過去にドライソケットを経験したことがある: 一度ドライソケットになった経験がある方は、再発のリスクが高いとされています。

ドライソケットの対処法と治療

ドライソケットの疑いがある場合は、我慢せずにすぐに歯科医院を受診することが何よりも重要です。

自宅でできる応急処置（あくまで受診までの間）

歯科医院を受診するまでの間、痛みを少しでも和らげるために、以下の応急処置を試みてください。

安静にする: 体を休ませ、無理な運動は避けてください。

患部を冷やす: 頬の外側から冷却パックや氷嚢で冷やすことで、炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。直接患部を冷やすのは避けましょう。

口腔内を清潔に保つ: 抜歯窩を刺激しないように注意しながら、優しくうがいをしたり、歯磨きをしたりして口腔内を清潔に保ちましょう。強くうがいをすると血餅がさらに剥がれる可能性があるので注意が必要です。

市販の鎮痛剤の服用: 痛みが強い場合は、市販の鎮痛剤を服用しても構いませんが、根本的な解決にはなりません。

歯科医院での治療

歯科医院では、以下の治療が行われます。

抜歯窩の洗浄: 露出している骨の表面を清潔にし、食べかすや感染源を取り除きます。生理食塩水などで優しく洗浄します。

血餅の再形成を促す処置: 抜歯窩を刺激して再出血させ、新たに血餅を形成させる処置が行われることがあります。

薬剤の挿入: 抜歯窩に、痛みを和らげ、感染を防ぐための薬剤（抗生物質軟膏や鎮痛作用のある薬剤を染み込ませたガーゼなど）を挿入します。

痛み止めと抗生物質の処方: 痛みが強い場合は痛み止め、感染が疑われる場合は抗生物質が処方されます。

定期的な経過観察: 数日ごとに来院し、抜歯窩の状態を確認し、必要に応じて薬剤の交換や洗浄を行います。

治療期間は、症状の程度にもよりますが、数日から数週間かかることがあります。根気強く歯科医師の指示に従うことが大切です。

ドライソケットの予防策

ドライソケットは、適切な術後管理で発生リスクを大幅に減らすことができます。

抜歯後の注意事項を厳守する: 歯科医師や歯科衛生士から説明される注意事項（うがいの仕方、食事、飲酒、喫煙など）をよく聞き、必ず守りましょう。

過度なうがいを避ける: 抜歯当日は、うがい薬などで軽くゆすぐ程度に留め、強くブクブクうがいをするのは避けましょう。翌日以降も、患部を刺激しないように優しく行います。

喫煙・飲酒を控える: 抜歯後少なくとも1週間は禁煙・禁酒を心がけましょう。特に喫煙はドライソケットのリスクを大きく高めます。

ストローの使用を避ける: ストローで飲み物を吸う行為は、口腔内の陰圧変化を引き起こし、血餅が剥がれる原因となります。抜歯後しばらくは控えましょう。

刺激物を避ける: 辛いもの、熱いもの、硬いものなど、抜歯窩を刺激する可能性のある食べ物は避けましょう。

安静にする: 抜歯後は、激しい運動や無理な活動は避け、安静に過ごしましょう。

口腔内を清潔に保つ: 抜歯窩を直接刺激しないように注意しながら、普段通り歯磨きを行い、口腔内を清潔に保つことが感染予防につながります。

まとめ

親知らずの抜歯は、誰にとっても不安なものですが、トラブルについて正しい知識を持つことで、もしもの時にも冷静に対応できます。

特にドライソケットは強い痛みを伴うため、その症状や原因を知っておくことは非常に重要です。

抜歯後の痛みや症状がいつもと違うと感じたら、「きっと大丈夫」と自己判断せずに、すぐに歯科医院に連絡し、適切な処置を受けるようにしてください

。早期発見・早期治療が、つらい症状からの回復を早める鍵となります。

この記事が、親知らずの抜歯を経験された方、これから抜歯を控えている方の一助となれば幸いです。不安なことは、かかりつけの歯科医師に遠慮なく相談し、安心して治療を受けてくださいね。

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